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営業秘密といえば秘密管理性?

2016年12月10日不正競争警告状対応

間違った思い込み

「ライバル社の営業秘密を、自社が不正取得して使用している、ただちに使用をとりやめろ、

という不正競争防止法の警告状が届いた。

調べてみたところ、ある情報が営業秘密にあたるかどうかを判断する上で、最大のポイントは、

その情報が、「秘密として管理されている」かどうか(秘密管理性)であるらしい。

だから、自社としては、何よりも優先して、

不正取得を疑われている相手の情報が、秘密として管理されていなかった、

という点を詳細に指摘して反論することが重要だ。」

正しい心構え 

「ある情報が、相手社内で秘密として管理されているかは、それ自体が相手の内部事情。

相手の内部事情について、こちら側から詳細な情報を探り当てるのは、簡単なことではない。

他方、自社がその情報を「不正取得」して「使用」したのかどうかは、自社の内部情報。

相手の側から見れば、探り当てるのが難しい情報。

まずは、相手が疑いをかけてきている情報を、

自社が、実際に「不正取得」して「使用」したと言えるのか、相手がそのように証明できるのか、

この点の情報格差を利用して相手を撃退できないか、検討することが先決。」

解 説

営業秘密については,近年の注目テーマということもあり、実務上のマニュアルが多数出ています。

有名なのは、経産省が作成した「営業秘密管理指針」(インターネット上で見られます)などですね。

 

で,これらのマニュアルを見ると,概して,

ある情報が営業秘密として保護されるためには,

①「秘密管理性」,②「有用性」,③「非公知性」の,3つの要件が必要であって,

その中でも,とりわけ重要なのが,秘密管理性である,ということが書いてあります。

営業秘密は秘密管理性に尽きる,という雰囲気です。

 

このような説明は,もちろん間違っていません。

しかしそれは,営業秘密を,これからどうやって守っていけばいいのか,

ということについての説明です。そのためのマニュアルです。

 

これからどうやって守っていけばいいのか,ではなくて,

もう既に,営業秘密について他社との間で紛争が生じてしまった,

という段階においては,大きく話が違ってきます。

この段階では,営業秘密は秘密管理性に尽きる,ということにはなりません。

この段階で,秘密管理性と同じくらい重要なのは,

問題となっている情報を,実際に,「不正取得」して「使用」したといえるのかということです。

とりわけ,警告される側にとって,このことは重要です。

 

具体例で考えれば,よくわかると思います。

 

「Aさんは,ある車のディーラー(X社)に,営業マンとして勤務していた。

個人で,約500人の顧客を担当していた。

約500人の顧客について,Aさんは,営業で接触する度に,

自分のノートに,住所・職業・年齢・家族構成などの顧客データを書きとめて記録していた。

Aさんは,自分が記録したこれらの顧客データを,X社にも逐次報告し,

これらは,X社が管理する顧客ファイルの一部としても,まとめられていた。

 

その後,Aさんは,X社を退職して,同じエリアの別のディーラー(Y社)に転職した。

Aさんは,X社勤務時に記録していた自分のノートに基づいて,

旧知の約500人の顧客に対して,Y社の営業活動を行った。

 

これを知ったX社は怒って,

X社の顧客ファイルという営業秘密を、Y社が不正に取得して使用している、ただちに使用をとりやめろ、

という不正競争防止法の警告状を,Y社に対して送りつけた。」

 

このようなケースで,Y社がX社に反論するにあたって,

いきなり秘密管理性に飛びつくというのは,賢明ではありません。

 

というのも,率先して秘密管理性を争うには,

X社の社内において,顧客ファイルの管理体制がずさんだった,という事実を,

Y社から具体的に主張していかなければいけません。

例えば,顧客ファイルが入っていた棚に鍵はかかっていなかったとか,

営業以外の社員も,自由に顧客ファイルにアクセスしていた,といった事実ですね。

 

しかし,そんな事実,Y社はどうやってわかるのでしょうか。

 

まず,Aさん以外のY社社員には,絶対にわかりませんね。

X社に何の縁もないのだから,顧客ファイルについての内部事情なんて知りようがない。

Y社の唯一の手がかりは,Aさんの過去の記憶です。

しかし,Aさんが,X社勤務時,専ら自分のノートに基づいて営業を行っていて,

会社として整理し直した顧客ファイルはほとんど参考にしていなかった,という場合,

顧客ファイルが,どこでどのように管理されていたか,ほとんど記憶にないかもしれない。

そうするともう,お手上げです。

 

このような,情報格差による絶対的なハンデを負った中で,

Y社が,いきなり秘密管理性の土俵で戦いを挑むというのは,分が悪すぎます。

 

そうではなくて,Y社としては,もっと素直に反論すればいいのです。

素直な反論というのは,もちろん,

(顧客ファイルが,X社内部で秘密として管理されていたか否かにかかわらず,)

そもそも,Aは(ひいてはY社は),顧客ファイルの情報を「不正に取得」していないというものです。

 

このような反論に対しては,X社から,ほぼ間違いなく,

「顧客ファイルの情報を取得せずに,どうして500人もの多数の顧客の連絡先がわかるんだ。

そんなこと,常識的に考えてありえない。」

という再反論があることでしょう。

 

しかし,このような再反論に対しては,

「Aさんは,X社勤務時から自分のノートを作成しており,現在もこれを利用している。

だから,顧客ファイルを不正取得していないにもかかわらず,多数の顧客に連絡できるのだ。」

と再々反論すればいいわけです。

 

不正取得や使用(をしていないこと)に関する具体的事情は,

先ほどの,X社内の秘密管理体制の話とは異なり,

Aさん(ひいてはY社)にとっては,自分自身の情報ですから,詳細に反論できますよね。

逆に,X社にとっては,相手方のことなので情報収集が難しい,泣き所です。

Y社としては,秘密管理性メインで戦うよりは,よほど事が有利に運べるはずです。

 

営業秘密,不正競争防止法に限らず,あらゆる紛争は情報戦です。

自分の情報量が多く、相手の情報量が少ないポイントで戦うことが,絶対的に有利です。

わざわざ、自分の情報量が少なく、相手の情報量が多いポイントで戦う必要はありません。

 

営業秘密といえば秘密管理性,といったイメージにとらわれることなく,

冷静に,自社の強みが発揮できるポイントを選んで,そこで集中的に反論することが,

営業秘密の警告状に対応する上では,大切です。

 

 

<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。

 訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。

 知財については初心者だけど、どうやって対処すればいいのだろう?

 

 このブログは、そういった方のための、転ばぬ先の杖です。

 初心者の方にありがちな(でも、実は専門家にもありがちな)間違った思い込みを、

 毎回一つずつ取り上げます。

  

    どこが間違っているのか、じゃあどうすればいいのか、

    弁護士・弁理士の北川修平が、詳しく解説します。>

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