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侵害かどうか微妙なら訴訟しかない?

2016年12月8日不正競争警告状対応, 商標警告状対応, 意匠警告状対応, 特許警告状対応, 知財(全般)警告状対応, 著作権警告状対応

間違った思い込み

「ライバル社から、特許の警告状が届いた。

詳しく検討してみたところ、自社製品が相手の特許を侵害しているか否か、実に微妙だ。

どちらとも断言できない以上、交渉でまとめるのは難しいだろう。

あとはもう、訴訟で白黒つけるしかない。」

正しい心構え 

「特許を侵害しているか否かは、常に微妙な価値判断。

『どちらとも断言できない』ことは、日常茶飯事。

たったそれだけの理由で、訴訟やむなし、というのでは、金と時間がいくらあっても足りない。

たったそれだけの理由で、自社ビジネスの命運を、他人(=裁判官)の判断に委ねるべきではない。

『どちらとも断言できない』というのは、お互いに弱み(=譲歩する動機)があるということ。

むしろ、合理的な歩み寄りの余地があるとみて、粘り強く交渉すべき。」

解 説

特許に限らず、商標・意匠・著作権・不競法…およそ知財全般に共通することですが、

自社製品が相手の権利を侵害しているか否かは、しばしば、非常に微妙です。

 

具体例を考えてみましょう。

天むすの製造販売を行っている会社が、

「天ぷらを具材に含む、おにぎり。」という権利範囲の、特許権を持っているとします。

以前に出した例ですね。)

 

ところで、ご存知でしょうか、

モスバーガーで、かき揚げライスバーガーって売ってますね。

(正式な商品名は、「モスライスバーガー海鮮かきあげ」というようです。)

炊いたお米を、ハンバーガーのパン状に固めて成形して、

パン状のお米2枚で、かき揚げを挟み込んだものです。

 

先ほどの天むす社が、モスバーガーに対して、警告したとします。

モスが販売するかき揚げライスバーガーは、

自社の有する「天ぷらを具材に含む、おにぎり。」という特許を侵害するから、

直ちに製造販売を中止しろ、という警告を行ったとします。

 

警告状が届いたモスバーガーとしては、どう判断すべきでしょうか。

実に微妙ですよね。

 

「かき揚げ」という具材が、「天ぷら」に含まれることは、100%明らかです。

ここは否定しようがない。

 

だけれども、果たして、「ライスバーガー」は、「おにぎり」に含まれるのでしょうか。

「炊いたお米を、ハンバーガーのパン状に固めて成形して、

パン状のお米2枚で、何らかの具材を挟み込む」、例のあの食品。

あれは、おにぎりなんでしょうか。

おにぎりの一つの亜流を、ライスバーガーと呼んでいるだけなんでしょうか。

だから特許侵害なんでしょうか。

それとも、おにぎりではないんでしょうか。

おにぎりとは、何か根本的に本質が異なる、別個の食品なんでしょうか。

だから特許を侵害していないのでしょうか。

 

この事案、どれほど経験豊富な弁護士や弁理士であっても、

侵害か非侵害か、確信をもって判断することは、不可能だろうと思います。

「どちらとも断言できない、実に微妙なケースだ」としか言いようがない。

 

言い換えれば、仮に訴訟になったときに裁判官がどちらの判断をするか、

確信をもって予測することは、不可能です。

「どちらかといえば、侵害になる可能性の方が高いのではないか」

という程度の、ざっくりとした予測が限界です。

 

ところで、弁護士が、このように、侵害か非侵害か微妙なケースだという指摘をすると、

「それならばもう、訴訟で白黒つけるしかない」という反応を示す方が、結構いらっしゃいます。

 

確かに、明らかな負け筋の事件で、訴訟までやられてしまうのは愚の骨頂なわけで、

(明らかに負け筋と判断できるのであれば、さっさと謝って収めてしまうべきです。)

それに比べれば、微妙なケースというのは、訴訟でも十分に争う余地があるということですから、

訴訟をやるというのは、決しておかしいことではありません。

 

しかし、訴訟には、デメリットがあります。

金も時間も手間もかかる、というのは言うまでもないデメリットですが、それだけではありません。

 

訴訟の、最も大きなデメリットは、

「自分のことを自分でコントロールできなくなってしまう」ことです。

「自社の命運が、見ず知らずの他人(=裁判官)の意向に委ねられてしまう」ことです。

 

もちろん、訴訟外での交渉だって、何でも思うようにはいきません。相手があることですから。

でも、交渉ならば、こちらからどういう条件を提案するか、展開次第でどれほど譲歩するか、

あるいは、相手の提案を呑むか呑まないか、どのような修正を求めるか、等々、

これらは全て、当事者である、自分自身の決断です。

交渉では、駆け引きの末に、どのような合意をするか(しないか)の決定権限は、

全て、自分自身が握っています。

 

他方で、訴訟というのは、結局、当事者(自分と相手)だけでは決められないので、

見ず知らずの他人(=裁判官)に、最終的な判断を丸投げしてしまう、というシステムです。

自分の運命を、他人の胸先三寸に預けてしまう、というシステムです。

 

これって、それ自体が、ものすごいリスクです。

自分と交際相手は結婚すべきか別れるべきか、他人に決めさせるようなものですから。

 

もちろん、他人に決めさせた結果、吉と出ることはあります。

親が決めた相手と結婚したが、結果的には幸せな一生だった、という方は多いでしょう。

微妙な事案で訴訟をやった結果、自社に有利な判断が出て、めでたしめでたし、ということもあります。

 

しかし、それは結果論です。たまたま上手く行っただけです。

もう一度同じことをやったとして、同じ結果になる保証はありません。

(保証があるというならば、それはそもそも「微妙な事案」ではありません。)

一つ間違っていれば、特許侵害が認められ、自社のビジネスが差し止められて、

市場から完全撤退を強いられていたかもしれない。累積投資が無に帰していたかもしれない。

 

こういう、丁半バクチのような訴訟を、明確な戦略的意図もなしに、

「どちらとも断言できないから、後は訴訟で白黒つけるしかない」というような、

曖昧な理由で、やるべきではありません。

 

むしろ、どちらとも断言できない微妙なケースだからこそ、

訴訟になった場合の結果の不確実性を、冷静に考慮した上で、

ビジネスの上のリスクは、自分自身の手の届くところで確実にコントロールする、という価値を重視して、

多少の譲歩も覚悟の上で、粘り強い交渉を行う、ということが、望ましいと思います。

 

「どちらとも断言できない微妙なケース」というのは、

警告する側からみても、どうなるかわからない(勝訴が計算できない)ということですから、

警告する側も、警告される側も、部分的な弱みをかかえているわけです。

 

双方ともに、部分的な弱みがあるということは、

双方ともに、譲歩してまとめる動機がある(ありうる)ということです。

ですから、こちらにおいて、合理的な範囲内での譲歩は致し方ない、という心積もりさえあるならば、

客観的に見て、交渉によって解決する可能性が高い事案です。

 

お互いの訴訟リスクを踏まえて、割合的に解決しよう、という姿勢を共有できれば、

低額のライセンス契約の締結だとか、在庫を売り切る時期まで待っての設計変更だとか、

お互いに納得できる落としどころが、見つかるはずです。

 

先行きどうなるかわからないこと(不確実性)は、本業の邪魔でしかありません。

誰だって、なるべくなら避けたいものですから。

 

 

<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。

 訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。

 知財については初心者だけど、どうやって対処すればいいのだろう?

 

 このブログは、そういった方のための、転ばぬ先の杖です。

 初心者の方にありがちな(でも、実は専門家にもありがちな)間違った思い込みを、

 毎回一つずつ取り上げます。

  

    どこが間違っているのか、じゃあどうすればいいのか、

    弁護士・弁理士の北川修平が、詳しく解説します。>

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