同じ名前の商標なら即アウト?
2016年11月21日商標警告状対応, 知財(全般)警告状対応
間違った思い込み
「異業種の会社から、商標権侵害の警告状が届いた。
どうやら、その会社は、自社製品と全く同じ名前の登録商標を持っているらしい。
これはもう、完全にアウトだ。誤って許してもらうほかない。」
正しい心構え
「名前が全く一緒でも、商品のジャンルが異なれば、商標権侵害にはならない。
異業種の会社が持つ商標の商品ジャンルは、自社製品とは異なっている可能性が高い。
全く筋違いの警告かもしれない。まだまだ諦める必要はない。」
解 説
ここは、商標のイロハですが、極めて多くの方が誤解されているところです。
「そんなん、名前をパクってるなら即アウトだろ。」というのが、一般的な感覚ではないかと思います。
でも、商標権を侵害しているか否かは、それだけでは決まりません。
というのも、商標権というのは、「◯◯という名前を使う権利」ではありません。
「××という商品について、◯◯という名前を使う権利」です。
例えば、トヨタが持っているのは、「プリウスという名前を使う権利」ではありません。
「自動車という商品について、プリウスという名前を使う権利」です。
だから、無断でプリウスという車を作って売れば、トヨタの商標権の侵害です。
でも、無断でプリウスという豆腐を作って売っても、トヨタの商標権の侵害にはなりません。
トヨタは、「自動車という商品について、プリウスという名前を使う権利」を持っているだけで、
「豆腐という商品について、プリウスという名前を使う権利」は、持っていないからです。
持っていない権利を侵害することなど、できません。
(ただし、「プリウス」ほど有名であれば、不正競争防止法違反の問題は、別途出てきます。)
ちなみに、商品のジャンルは、全く同じでなくとも、似ていれば侵害になります。
例えば、無断でプリウスというバイクを作って売れば、間違いなく、トヨタの商標権の侵害です。
というのも、(「自動車」と「豆腐」とは違って)「自動車」と「バイク」は似た商品です。
だから、プリウスという名前のバイクを作って売る行為は、
「自動車という商品について、プリウスという名前を使う権利」に引っかかってしまいます。
このように商標は、名前と、それを使う商品のジャンル(「指定商品」)が、ワンセットです。
単に、「◯◯という名前を使う権利」ではありません。
だから、自社製品と同じ名前の商標を持っているという警告状が飛んできたとしても、
それだけで白旗を上げる必要は、全くありません。
落ち着いて、相手の商標が登録している商品ジャンルと、
自社製品の商品ジャンルが似ているか否かを調べてください。
両者が全然似ていなくて、反論可能な場合は多々あります。
自分で判断がつかないようであれば、諦める前に、弁護士や弁理士に相談してください。
ちなみに
「そんなん、名前をパクってるなら即アウトだろ。」とならない理由は単純です。
そもそも、商標法は「新しい名前」(を思いつくネーミングセンス)を保護する法律ではないからです。
商標というのは、メジャーな割に、「変な」知的財産権です。
「変な」というのは、一般の人が抱く知財のイメージに反しているということです。
おそらく、一般の人の直観的な知財のイメージは、
「新しいことを思いついた人に、その新しいことを独占させる」
というものではないでしょうか。
要は、「新しいことを思いついた奴は偉い」という感覚ですね。
特許も、著作権も、意匠も、このような感覚を持ち合わせています。
でも、商標は、違います。
商標が持っているのは、「新しいことを思いついた奴は偉い」という感覚ではなく、
(既にあるものの中からでも)「先に選んだ奴は偉い」という感覚です。
「プリウス」という単純な4文字を思いついた人は、それまでも世の中にいたかもしれない。
けれども、「プリウス」という名前を、「自動車」という商品とセットで選んで、
商売に使用したいと言ってきたのは、トヨタが最初です。
だから、このセットについてだけは、「先に選んだ奴は偉い」ということで、
トヨタに独占させてあげましょう、となるわけです。
トヨタは、新しい名前を思いついたから偉いのでなく、先に選んだから偉いのです。
このように、「プリウス」という4文字の名前を思いついたこと、それ自体は、
商標法の世界においては、トヨタの手柄でもなんでもない。
だから、プリウスという名前を、自動車と全然関係ない豆腐に使うことまで、
文句を言われる筋合いはない、ということになるのですね。
<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。
訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。
知財については初心者だけど、どうやって対処すればいいのだろう?
このブログは、そういった方のための、転ばぬ先の杖です。
初心者の方にありがちな(でも、実は専門家にもありがちな)間違った思い込みを、
毎回一つずつ取り上げます。
どこが間違っているのか、じゃあどうすればいいのか、
弁護士・弁理士の北川修平が、詳しく解説します。>
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