専門家からの警告状は怖い?
2016年11月17日不正競争警告状対応, 商標警告状対応, 意匠警告状対応, 特許警告状対応, 知財(全般)警告状対応, 著作権警告状対応
間違った思い込み
「専門家(弁護士/弁理士)がわざわざ名前を出して警告してくるのだから、
やっぱり権利を侵害している可能性が高いのだろうか…。」
正しい心構え
「専門家(弁護士/弁理士)からの警告があったとしても、
①中立的な見解ではないし、②乏しい情報で判断しているし、③知財は人によって評価が分かれるし、
それだけでは、侵害しているかどうかなんて、全然わからない。」
解 説
弁護士会や市役所などでの、一般の方向けの法律相談に行くと、
「いきなり弁護士から内容証明が送られてきた。不安で不安で夜も寝られない。」
という声を、頻繁に聞きます。
やっぱり、弁護士から、小難しい理屈を添えて、金を払えという書面が届くと、
それだけで、「こちらにも言い分はあるけど、でも、やっぱり払わなきゃいかんのかなあ…」
という気分になってしまうようですね。どうしても。
こういう不安は、街中のおじさんおばさんだから抱くものであって、
会社を背負って知財の警告状を受けて立つ、ビジネスパーソンには無縁の感情でしょうか?
無縁な方もおられるかもしれません。
でも、おそらくは、ほとんどがそうではないですよね。同じ人間ですから。
やはり、警告状の送り主が、弁護士や弁理士といった専門家や、名の知れた大企業であると、
「こういう肩書の人(組織)が、全く根拠のない、不当な警告を行うだろうか…?
やっぱり、権利侵害している可能性が高いのではないだろうか…?」
という不安に、多かれ少なかれ襲われてしまうのではないでしょうか。
(むしろ、一個人の話ではなく、背後に会社という組織を背負っているだけに、
責任の重みで、この種の不安を、より強く感じる、ということすらあるかもしれません。)
しかし、警告状が、いかに立派な肩書きの持ち主から送られてきたとしても、
そのことから、実際に自社が権利を侵害しているかどうかなかんて、全くわかりません。
この種の本能的な不安を、全くゼロにするのは不可能かもしれません。
しかし、できる限り不安を取り除くために、ここでは、3つの点を指摘しておきます。
第一に、相手方の専門家の言動には、必ず意識的なバイアスがあります。
警告状を送ってくる弁護士/弁理士は、確かに、専門家です。
しかし、公正中立な専門家ではありません。身びいきで偏った専門家です。
相手からお金をもらい、相手(=依頼者)の利益を第一に考えて行動する専門家です。
当然、相手方の専門家の言うことには、大きなバイアスがかかっています。
もちろん、明らかに不合理なことを言えば、プロとしての信用を失ってしまいますから、
まともな専門家であれば、全くの白を黒とは言いません。
でも、黒に近いグレーなら、平気で黒だと言いますし、
薄いグレーでも、真っ黒のように断言して見せることは、日常茶飯事です。
このことは、わかっているようで、しばしば忘れがちになるので、要注意です。
ちなみに、興味深いもので、実は自信がない場合ほど、
本音としての自信のなさを覆い隠すために、語調が強くなることがあります。
誰が見たって黒ならば、わざわざ強い語調で「黒だ!!!」と言う必要もない。
薄いグレーを、何とか黒だと言わなければいけない、その内心の苦しさが、
「火を見るよりも明らかである。」「異論の余地がない。」なんて、
やたらに強硬な表現として噴き出してしまうのは、ありがちなことです。
だから、こういう強硬な表現にも、ビビる必要は全くありません。
第二に、相手方の専門家の握っている情報量は、限定的です。
相手の専門家は、確かに、知財実務についての一般的な情報には精通していることでしょう。
でも、御社の内部事情について、御社製品の詳細について、どれほど詳しく知っているでしょうか。
確かな情報を手に入れるアテはあるのでしょうか。
自信ありげに断言しているとして、裏付け証拠を本当に握っているのでしょうか。
手持ちの乏しい情報から、推測を重ねているに過ぎないのではないでしょうか。
結局、御社のことは、御社自身が一番よく知っているわけです。
この情報格差を利用すれば、いかなる専門家といえども、簡単に撃退できる場合が多々あります。
御社のことをよく知らない、外部からの指摘に、過度にビビる必要はありません。
第三に、相手方の専門家自身、自分の判断に確固たる自信を持っていないことがほとんどです。
知財を侵害しているか否かの判断は、多くの場合、人によっていくらでも評価が分かれるものです。
専門家だからといって、そうそう簡単に、自分の判断に自信が持てるものではありません。
特に、著作権・意匠・商標といったあたりに顕著ですが、
ある物が、他人の知的財産権を侵害しているか、という事実認定は、
言葉や図形の解釈をめぐる価値判断の問題ですから、人によりけりで、何とでも言えます。
「白い恋人」と「面白い恋人」は、似てるか似てないかなんて、
どちらからでも理屈が立つし、何とでもいえます。実に不安定なものです。
さらに、この不安定さに輪をかけるものとして、
特許や商標や意匠は、一旦成立した権利が、後からひっくり返ってしまいやすい。
著作権にしたって、似ている似ていないの判断以前に、
著作物として保護される対象にあたらない、なんて平気で言われてしまう。
知的財産権は、そもそも権利であるかどうかすら、常に不安定です。
このような、二重の不安定さの中で、
権利侵害といえるかどうか、見通しをつけなければいけないわけですから、
警告状を送る専門家自身ですら、自分の判断に確固たる自信が持てるときなんて、むしろ例外的です。
結局、「とりあえず警告してみましょう。その先は、向こうの反応も見て考えましょう。」
という程度のことが多いわけです。
警告状を送付する専門家自身ですら、どれほどの自信を持っているかわからない言い分に対して、
送られた側が、むやみにビビる必要は、全くありません。
<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。
訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。
知財については初心者だけど、どうやって対処すればいいのだろう?
このブログは、そういった方のための、転ばぬ先の杖です。
初心者の方にありがちな(でも、実は専門家にもありがちな)間違った思い込みを、
毎回一つずつ取り上げます。
どこが間違っているのか、じゃあどうすればいいのか、
弁護士・弁理士の北川修平が、詳しく解説します。>
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