曖昧な警告状には、推測→反論が有効?
2016年11月15日特許警告状対応, 知財(全般)警告状対応
間違った思い込み
「特許警告状が届いたが、こちらのどの製品が特許を侵害すると言いたいのか、はっきり書いていない。
こういう場合、こちらから、問題になりそうな製品を取り上げて、素早く反論することが有効だ。」
正しい心構え
「相手の姿勢がはっきりしない中、推測で動くのは危険。まずは質問から始める。」
解 説
知財の争いは、情報戦です。
的確に警告状に対応するためには、
相手が、どれほどの情報を掴んで、どういう意図で警告してきたのか見極めることが、不可欠です。
これは、特許・商標・意匠・著作権・不正競争防止法といった、ジャンルの別を問いません。
例を挙げましょう。
とある会社から、特許警告状が送られてきた。
「製造販売の中止に応じない場合には、法的措置も検討せざるをえません。」などと書いてある。
中身を読むと、特許を侵害していると主張する自社の製品が、いくつも、商品名や品番で特定してある。
さらによく読むと、同一シリーズの製品群でも、全部を一緒くたにして侵害だというのではなく、
特許侵害だと主張する製品と、主張しない製品とを、細かく取捨選別している。
このような警告状からは、重要なメッセージが読み取れます。
相手は、実際に製品を入手して、リバースエンジニアリングしたのでしょう。
(だからこそ、どの製品が特許を侵害しているか、細かく取捨選別して主張できるのでしょう。)
そうであれば、自社製品の構造について、詳細な情報を掴んでいるでしょう。
そして、情報を集めるためには、お金がかかりますから、
わざわざお金を費やして、そこまでの情報を集めているということは、
それなりに、本気で警告しているのだろう、ということを感じさせます。
この場合、「製造販売の中止に応じない場合には、法的措置も検討せざるをえません。」という言葉を、
現実味のない脅し文句だと判断することは、危険です。
訴訟に発展しかねない事案だということを念頭に、慎重に対処する必要があります。
このように、警告状で、どの製品について権利侵害を主張しているか、という情報一つからも、
相手方の方針について、有益な予測を立てることが可能になります。
他方、どの製品を問題にしているのか曖昧な警告状の場合は、どうでしょうか。
「貴社製品の中には、本件特許と密接な関係を有するものも、多々含まれているものと思料いたします。」
なんて曖昧なことを言うだけで、具体的に、どの製品を問題にしているのか、全然わからない。
曖昧な警告状の場合、相手がどれほどの情報を掴んでいるのか、どれほど本気なのか、わかりません。
自社製品について、全く具体的に調べていないから記載が曖昧なのか、
実はよくよく調べたけど、何か戦略的な意図をもって記載を曖昧にしているのか、区別がつきません。
相手方の方針について、警告状から、得られる情報が少ないのですね。
このままでは、ハンデを負った状態です。
情報が少なく、相手方の方針が読めない中、焦って先回りしようとすると、いいことはありません。
実は、相手が、自社製品について調査不足だったとします。
このような相手を、詳細に調査しているけど、敢えて曖昧にしているのだろうと買いかぶって、
こちらから進んで、問題になりそうな具体的な製品を特定して、詳細な反論を行ったら、
わざわざご丁寧に、相手が掴んでもいない情報を教えてあげることになり、
かえって、強気な対応の呼び水となりかねません。
実は、相手が、自社製品について詳細な調査をしていたが、意図的に曖昧な記載に留めていたとします。
このような相手を、大した調査もしていないだろう、どうせ冷やかしだろうと決めつけて、
木で鼻を括るような回答をしてしまっては、
交渉に必要な信頼関係を喪失して、無用な訴訟になりかねません。
じゃあ、どうすればいのか。
問題の本質は、わからないことを、わかったかのようにして事を進めようとしていることです。
わからないならば、それを知っている人に聞けばいいのです。
相手に直接質問して、情報を聞き出せばいいのです。
「弊社のどの製品を問題視しておられるのか、その理由とともに、具体的にご指摘いただきたい。
具体的なご指摘を待って、誠実に検討させていただきたい。」
というような調子で、相手にズケズケと聞いてみればいいのです。
そんなこと聞いたら、引き延ばし工作だと見られて、怒って訴訟を提起されてしまうのではないか?
いやいや、そんなことはありません。
というのも、訴訟を提起しようとすると、訴状に、どの製品が特許を侵害していると言いたいのか、
製品名や品番で特定して、詳しく記載しないといけないのですよ。
どのみち、そこを詳しく調べておかないと、訴訟なんて起こせないのですね。
そして、相手が、訴訟を起こせる程度に、自社製品のことを詳しく調べているのであれば、
わざわざ訴訟を提起する前に、こちらに詳しい言い分を開示してくれるはずです。
相手方だって、できれば、訴訟なんてやりたくないでしょうから。
<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。
訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。
知財については初心者だけど、どうやって対処すればいいのだろう?
このブログは、そういった方のための、転ばぬ先の杖です。
初心者の方にありがちな(でも、実は専門家にもありがちな)間違った思い込みを、
毎回一つずつ取り上げます。
どこが間違っているのか、じゃあどうすればいいのか、
弁護士・弁理士の北川修平が、詳しく解説します。>
- PREV 国が認めたから、特許は当然有効?
- NEXT 専門家からの警告状は怖い?