コメダに警告された「マサキ珈琲」の代理人だったら?
2017年1月6日不正競争警告状対応, 商標警告状対応, 未分類, 知財(全般)警告状対応
間違った思い込み(実例を参考にした仮想例)
「自社は、有名なコメダ珈琲の店舗の外観を、ほぼ丸写しした店舗を建築して、
(ただし、「マサキ珈琲」という、コメダとは全く別の店名で)喫茶店営業を行っていた。
そうしたところ、コメダ珈琲から、自社店舗の外観が、コメダのそれに類似しているから、
直ちに店舗の使用を取りやめろ、という、不正競争防止法の警告状が届いた。
自社の本音としては、初期費用は未回収だし、他方で、売上は好調なので、
何とか、このまま現状維持で営業を継続したい。
調べてみたら、店舗外観の類似について、不正競争防止法を根拠に差止請求するのは、
かなり苦しい法律論であり、訴訟になった場合、請求が認められた前例がほとんどないという。
これはもう、交渉で妥協するメリットはなく、訴訟(や仮処分)を受けて立つ一択だ。」
正しい心構え(私見)
「不正競争防止法(2条1項1号類型。商品等主体混同行為)は、
元々、事案ごとの実質論に後から法律論が付いてくる、融通無碍なところがある。
自社が、コメダに確信犯的にタダ乗りしようとした丸写しであり、
実質的な悪質性が非常に高い(と裁判所に評価される可能性が高い)ことも考えれば、
請求を認めた前例はなく、法律構成自体は依然苦しくとも、
訴訟で差止が認められるリスクは、ある程度大きなもの(現実的なもの)と見るべき。
自社店舗の外観のうち、変更に要する費用が少なく、かつ、売上への影響が小さい箇所を、
部分的に変更することで手打ちにできないか、誠実な交渉を試みるべき。」
解 説
元ネタは(というか、既に固有名詞を出していますが)もちろん、
平成28年末に、東京地裁が差止の仮処分を出して、全国的なニュースとなった、
コメダ珈琲対マサキ珈琲の事件ですね。
この事件、ゴシップとして笑い飛ばすもよし、トレードドレス保護の学術研究の素材とするもよし、
人により、興味関心は色々だと思うのですが、
個人的には、もしも自分が、警告状を送られたマサキ珈琲の代理人だったら、
どのような方針で対応すべきだろうか、という実戦的な視点から考えてしまいます。
というのも、本件は、形式論(法律論)ではコメダが苦しいが、
実質論ではマサキが苦しい、という微妙な事件です。
普通、私たちは喫茶店を、店名(商号・商標・標章)で区別します。
店舗の前にある、店名が書いてある看板をイメージしてください。
「DOUTOR」という看板があれば、ああこの店はドトールなのか、と思うし、
「STARBUCKS COFFEE」という看板があれば、この店はスタバなのか、と思いますよね。
逆に言えば、喫茶店を、店舗の外観で区別するということは、例外的なわけです。
例えば、ドトールが撤退した物件の居抜きで、私が「キタガワ珈琲」という店を始めたとしたら、
普通は、ああ違う店になったのか、と思いますよね。
看板はドトールからキタガワに変わったけど、それ以外の外観は全然変わっていないから、
この店、実はまだドトールのままなんじゃないか、とは思いませんよね。
ところで、本件は、店名は、「コメダ珈琲」と「マサキ珈琲」で、全然似ていないわけです。
コメダが、店名が似ていると主張して(商標法や不競法で)攻めても、100%空振りしてしまう。
そのため、コメダとしては、店舗の外観が、非常によく似ている、という点を取り上げて、
店舗の外観が、「営業表示」、つまり喫茶店を区別する目印になるのだ、と主張せざるをえない。
しかし、普通は、(看板を除いた)店舗の外観だけで喫茶店を区別はしませんから、
コメダの主張は、やはり形式論としては苦しい。
他方で、実質的に考えれば、
確かに、あのコメダ珈琲の店舗外観には、かなり統一的で特徴的なイメージがある。
普通は喫茶店を店舗外観で区別しないけれど、コメダに限っては普通じゃない、と言えそうな気もする。
そして、本件はまさに、そのコメダ店舗の丸写しであり、
かつ、ここまで丸写しだと、故意に模倣しようとしたことも否定しがたい。
一旦、マサキ側が、コメダへのフランチャイズ加盟を申し込み、
これが拒絶された後に、マサキ珈琲の営業を始めたという経緯も、甚だよろしくない。
いくら贔屓目に見ても、マサキがやっていることの悪質性は非常に高い、と見積もるべきでしょう。
実質論としては、マサキがかなり苦しいわけです。
こういう事件について、訴訟(仮処分含む)前の交渉段階において、マサキの側として、
訴訟に移行した場合のリスクをどのくらい織り込んだ対応をするか、というのは、難しい判断です。
つまり、裁判所は、形式論で切り捨てて、マサキに有利に判断をしてくれるだろうと予測して、
交渉段階での踏み込んだ譲歩を拒否し、訴訟を受けて立つのか、
あるいは、裁判所は、実質論を優先して、マサキに不利な判断をするだろうと予測して、
交渉段階で踏み込んで譲歩してでも、まとめるべきか、
代理人弁護士(弁理士)としては、非常に難しい判断を迫られることになります。
とはいえ、(店舗外観を周知の営業表示として差止を認めた)前例が乏しい、という点は、
過去に、ここまで悪質な事案がなかったにすぎない、というだけであって、
こういう材料に寄り掛かるのは、判断を誤る典型的なパターンのような気がしますし、
個人的には、やはり、(仮処分認容のニュースの後の、後知恵もあるのでしょうが…)
訴訟になった場合には、相当な確率で、裁判所がマサキに不利な判断をするであろうことを織り込んで、
積極的に交渉でまとめる方針で動きたい、という感覚があります。
その上で、交渉でまとめる方針を採った場合、最大の腕の見せ所(獲得目標)は、
店舗の外観を変更する範囲を、いかに小さく収めるか、ということになります。
(小さく、というのは、変更に要する費用が少なく、
かつ、既存の売り上げへの悪影響が小さい、という意味です。)
おそらく、第一弾のコメダからの警告状は、
「貴社店舗の外観は、全体として当社店舗の外観に酷似しており…」
といった、漠然とした表現で飛んでくるのでしょうから、
マサキ側から、「どの部分がどのように類似しているのか、具体的に特定されたい」と質問責めにして、
コメダが類似すると主張する店舗外観のポイントを、いくつかの具体的な部分に絞らせる。
その上で、これら全ての部分を変更するのではなく、
マサキにとって変えやすい部分のみを変えることで、双方の折り合いをつける。
(折り合いをつける際には、コメダが形式論で不利であるという牽制材料を、最大限に強調する。)
マサキの側としては、このような作戦が考えられます。
日経から引用しますが、
(出典:日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFD27H07_X21C16A2000000/)
という風に、
仮に、コメダが4つの点の類似を特に強調しているとして、
例えば、②化粧板と③テントの、色の変更だけで収まるならば、マサキとしては嬉しいですし、
④の切り妻屋根自体を変更することは、大きな負担になりますから、何としても避けたいでしょう。
ここら辺で綱引きして、落としどころを見つけられれば、予想通りの展開です。
いずれにせよ、訴訟前にまとめようと思えば、粘り強い交渉力が必要とされる事件です。
マサキのアンフェアな行動が事件の出発点であって、
コメダとマサキの会社間の信頼関係は、そもそもゼロに等しいでしょうから、
フェアな交渉態度でもって、代理人同士の信頼関係を構築していくことも、合意の成立には必須でしょう。
できれば、相手方代理人に、直接会いに行って話したいところです。
(こういう面白い事件がありましたら、是非ご依頼ください。
一生懸命やらせていただきますので。)
<突然、知財(特許・商標・著作権・意匠・不正競争防止法)の警告状が送られてきた。
訴訟にはしたくない。でも、今までと同じようにビジネスは続けたい。
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